1.クラウドとは
(1)クラウドとは
❶クラウドという言葉
クラウドとは雲(cloud)のことであり,雲の絵で表されていたインターネットを指します。よって,クラウドコンピューティングとは,インターネット上にシステムを設置する意味です。「サーバの設置場所を意識せずにコンピュータを利用する形態」という解釈をされていることも多くあります。
似た概念として,ASP(Application Service Provider)やSaaS(Software as a Service)があります。クラウド=SaaS=ASPと思っても,間違いではありません。どちらも概念であるため,定義はあいまいです。言葉の意味や語源を理解するにとどめ,どう違うかを厳密に追及しないようにすることをお勧めします。答えが無いからです。
具体例としては,GoogleのGmailやMicrosoftのOffice365などがあります。
❷クラウドの利点
政府も、「クラウド・バイ・デフォルト原則」という方針を打ち立て、オンプレミスのシステムではなく、クラウドを活用することにしています。以下の資料にもありますが、利点として、コスト削減や柔軟かつ信頼性が高いシステムを構築できることなどが記載されています。
https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/cloud_%20policy.pdf
企業がクラウドを導入する主要な理由は以下でしょう。
・コスト削減 ←直接的な理由だろう
・運用負荷の軽減 ←これが理由で導入には至らないだろうが、大きな魅力
逆に懸念点はセキュリティや、ノウハウが無いこと、(オンプレに比べて)柔軟性にかけること、などだと思います。
(NHK ITホワイトボックスより)
エコポイントのサイト、仕組みは、クラウドの仕組みが活用されている。
日本中の人が使うしかもたくさんの人に使われたシステムがわずか数カ月でできあがったのは、クラウド上のプラットフォームを活用し、既存の部品を有効活用したからだそうだ。また、開発コストもかなり安かったらしい。
クラウドは概念ですので,正確な定義はありません。SaaSやASPと考えればよいでしょう。
(2)クラウド関連の用語
❶プライベートクラウドとパブリッククラウド
パブリッククラウドは上記のGoogleAppsのようにインターネットを通じて受けるサービスです。AWSもパブリッククラウドです。
一方,プライベートクラウドは,企業内に独自のクラウド用サーバを構築します。
複数の企業でサーバを共有するタイプがパブリッククラウド、占有する場合がプライベートと考えてもいいでしょう。
❷ユーティリティコンピューティング
Utilityとは,「役に立つ」という意味です。システムを自ら構築して費用を負担するのではなく,サービス提供をうけて使用した分だけを従量制での支払うと便利で役に立つということです。イメージは,電話やガス,水道の従量制に似ています。自分で水道を引くのは不可能に違いので,役に立つ公共サービスを利用します。
ユーティリティコンピューティングは,クラウドコンピューティングによって実現される要素の一つです。クラウドコンピューティングを利用することで,使用した分だけの費用を支払うことができます。
(3)参考情報 ~NHKのITホワイトボックスより
・DeNAは、新サービスを開始するにあたり、ユーザの規模が分からないからクラウドを活用したとのこと。確かに、サーバをどれくらいの規模にしてよいのか見当がつかないため、どれくらいのシステムにしていいか全く分からない。サービスを止めないことを前提にするのであれば、莫大なスペックにする必要がある。一方、クラウドであれば、サービス提供型なので、スペック増強が簡単である。
・セキュリティに関しては、シュレッターでばらばらにした状態で各サーバに保存しているとのこと。だから、一つ一つのサーバが情報漏えいしたとしても、大事な情報は存在しない。
・2006年にGoogleのCEO、エリックシュミット氏がはじめて発言されたといわれる。日本では梅田望夫さんの「Web進化論」でクラウドということばではなく「あちら側,こちら側」という言葉を使っているが、当時からクラウドの時代になることがとても論理的に説明されていた。
2.クラウドのメリットデメリット
クラウドのメリットデメリットは,自社開発型,パッケージシステム,クラウド(およびSaaS)の3パターンで比較することができます。ビジネス・キャリア検定試験にこの点に関する出題がありました。
問題1 SaaSについて従来からある自己開発ソフトウェアやパッケージソフトウェアの導入と比べて,その特徴を整理しなさい。次に,SaaSの適用業務の例を1つ挙げ,その利点を具体的にまとめなさい。更に,効果的に導入・運用するために行うべき事柄について箇条書きで示しなさい。 (※平成20年度前期 ビジネス・キャリア検定試験問題 経営情報システム 1級 より引用) |
❶メリット
メリットの例は以下です。
・高品質:自社開発に比べ,品質の高いアプリケーション。クラウドだから高品質というわけではありませんが、結果的に規模の経済性なども踏まえて、現実的にはこうなっていると思います。また、AWSなどでは連携するサービスがとてもたくさんあります。これは、クラウドでしかできません
・短納期:開発期間がなく,すぐに利用可能
・柔軟性(および拡張性):季節的な需要増大などに対し,即座にスペックの増強が行える。逆に規模を縮小したりサービスをやめることも簡単。(⇒あまった資産の処分にも困らない)
・価格:初期投資だけの観点では,確実にコストメリットがでる。数年間のTCOは別。ただ、たとえば、企業が自社に設定しているWebサーバやサーバなどを、クラウド上に設置します。自社でサーバを買うよりも、価格が安くなるのでしょうか。必ずしもそうとは限りません。ですが、サーバの電源費用、空調、場所代、運用者による人件費など、トータルで考えると非常に魅力的な場合があります。
・容易性:システム管理者不足でも構築,運用可能。運用負荷の軽減
・どこからでも利用可能
・物理的なスペースが不要
エコポイント制度では,セールスフォース・ドットコム社のSaaSが利用されたと聞きました。何千万単位の人が使うシステムがわずか数カ月でできあがったのは,クラウド上のプラットフォームを活用したからだそうですね。また,利用期間が短かったから,トータルコストはかなり安かったらしいです。
また、非常に大きなシステムが必要だったのですが、買ってしまうと、エコポイントの仕組みが終わったときに、無駄な設備になってしまいます。クラウドであれば、いつでも止められます。
❷デメリット
・(機能の)柔軟性:自前で構築するに比べて,柔軟性が低い。カスタマイズが行いにくいし,他システムとの連携も行いにくい
・セキュリティリスク:外部に企業情報や顧客情報を預けるため,セキュリティが気になるところである
・インターネットが切断すると、何もできない
https://japan.zdnet.com/article/35163971/
3.クラウドサービス(SaaS,PaaS,IaaS)、ハウジングとホスティング
(1)SaaS,PaaS,IaaS
クラウドサービスといえば、AmazonのAWS、GCP(Google Cloud Platform) 、MicrosoftのAzureあたりが有名だ。※GCPは今はGoogle Cloudと呼ぶ。
クラウドサービスの形態としては、SaaS、PaaSとIaaSなどがあります。
違いは、まずは言葉の定義で理解しましょう。
laaS : Infrastructure as a Service →Infrastructure(基盤)
PaaS : Platform as a Service →Platform(プラットフォーム)
SaaS : Software as a Service →Software(ソフトウェア)
SaaSに関して過去問(H28春SG問47)では、「利用者が,インターネットを経由してサービスプロバイダのシステムに接続し,サービスプロバイダが提供するアプリケーションの必要な機能だけを必要なときにオンラインで利用するもの」と述べられています。
以下に、簡単な違いと例を紹介します。
クラウドサービス | 概要 | 具体例など |
SaaS(Software as a Service) | (顧客管理システムや会計システムなどの)Software(ソフトウェア)やアプリケーションの提供 | Google Appsのよる表計算ソフトやSalesforce.comによるCRMやSFA機能などがあります。また、WebメールもSaaSと考えられることでしょう。 |
PaaS(Platform as a Service) | データベースなどのPlatform(プラットフォーム)の提供 | AmazonEC2/3によるデータベース、Google社のApp Engineやセールスフォース ・ ドットコム社のForce.com。Webサーバのプラットフォーム(ApacheやTomcat)を提供するサービスもあります。 |
IaaS(Infrastructure as a Service) | 仮想サーバ(またはOS)などのInfrastructure(基盤)の提供 | AmazonEC2(Elactic Compute Cloud)のOSのみ |
※線引きは明確ではない。たとえば、AmazonEC2はIaaSサービスと言われるが、OSが入ったインスタンスを選べる。仮想サーバを提供しているとも考えられるが、OSが入ったサーバを貸してくれるので、OSまで提供してくれるとも考えられる。
過去問(平成24年春SC午後Ⅱ問2)には、以下の図があります。
Q.dとeは設問である。何が入るか考えよう。
↓
↓
↓
↓
↓
A.
d 事業者
e 自社
過去問(H25SC春午前2問9)を見てみよう。
問9 NISTの定義によるクラウドコンピューティングのサービスモデルにおいて,パブリッククラウドサービスの利用企業のシステム管理者が,仮想サーバのゲストOSに係る設定作業及びセキュリティパッチ管理作業を実施可かどうかの組合せのうち,適切なものはどれか。 IaaS PaaS SaaS ア 実施可 実施可 実施不可 イ 実施可 実施不可 実施不可 ウ 実施不可 実施可 実施不可 エ 実施不可 実施不可 実施可 |
↓
↓
↓
↓
↓
正解はイ
(2)ASPとSaaSの違い
SaaSはソフトウェアをサービスとして提供する仕組みで,ASP(Application Service Provider)と同じ意味と考えて良いでしょう。ただ,ASPはアプリケーションサービス提供事業者という訳であるためサービス事業者を指しますが,SaaSはサービス事業者を指すのではなく,ASPが提供する仕組み全体を指します。今ではSaaSいう言葉の方が広がっています。
SaaSは「サース」と発音しましょう。「サーズ」と濁って発音すると,SARS(重症急性呼吸器症候群)と勘違いされます。
(3)ホスティングとハウジング
①ホスティング
ホスティング(hosting)はホスト(host)となるコンピュータ,つまりサーバを貸ります。レンタルサーバと同義と考えてください。サーバは事業者が構築・設置してくれます。※一般には、そのお客様専用のサーバを準備します。
②ハウジング
ホスティングの対になる言葉として,ハウジングがあります。ハウジング(housing)は家(house)となるラックやスペースを貸ります。家といっても、実際にはデータセンターのラックを借り、そこに自前のサーバ(必要に応じてネットワーク機器など)を設置します。
両者は、クラウドサービスのIaaS,PaaS,SaaSとも異なります。
IaaSであれば、仮想基盤上にOSが構築されますし、SaaSであれば、OSなどは利用者には見えず、メールシステムやWebシステムなどのアプリケーションだけを利用できるサービスです。
違いを簡単に書くと、以下になります。
|
ハウジング |
ホスティング (専有型の場合) |
クラウド |
サービスの対象 |
(サーバを設置する)スペース(またはラック) |
サーバ |
アプリケーションなどのサービス |
サーバの所有権 |
顧客 |
事業者 |
事業者 |
(インストールやカスタマイズなどの)柔軟性 |
高い ← →低い |
||
(構築費などを含む)トータル価格 |
高い ← →安い |
4.IDaaS
SaaSやIaaSと同じように、ID管理をサービスとして提供するのがIDaaS(Identity as a Service:アイダース、アイディアース)である。IDaasやクラウドプロキシ、クラウドプロキシのセキュリティ対策などについては、以下に記載した。