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マルチキャスト

1.マルチキャスト

若手社員から資格取得の相談を受けることがよくあった。個別に同じ説明をするのは面倒になったので、全社員を集めたの朝礼の場で、全員に説明をした。途中で上司から中断されてしまった。全員が対象の話しではないというのが理由だ。
 何かいい方法はないだろうか。

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関係ない人は、聞かなければいいだけなので、
全員に話をしても問題ないと思いますけどね。
たしかに、全員に同時説明するのは便利です。しかし、全員向けに説明している間は、社員は他のことをできません。社員同士で別の会話や仕事をしてもらったほうが効率的です。
 かといって、個別に同じ話をするのは非常にもったいない。そこで、希望者だけを集めて、その人たちだけに説明することが得策です。 
 この考え方がマルチキャストです。グループを作ってそのグループだけに配信するのです。

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この内容が、ネットワークの世界の①ブロードキャスト、②ユニキャスト、③マルチキャストという3つの通信に対応します。

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でも、マルチキャストをしなくても、該当グループ全員にユニキャストすればいいでしょ。人間と違って、ITの世界なんだから、コピーするのは簡単です。
 小さいパケットならいいですが、映像などの大容量になってくると、帯域を大きく圧迫します。マルチキャストが求められるのです。
マルチキャスト

ネットワークスペシャリストを目指す女性SE笑顔 
じゃあ、海外にあるYoutubeなどの動画配信は
マルチキャストで配信されているんですね?
いや、実は違います。
ユニキャスト通信です。インターネットは基本的にマルチキャストパケットは通らないんです。
ユニキャストでもなんとか頑張れるというのと、CDNの仕組みも帯域圧縮には効果があります。
なので、マルチキャストのニーズというのはそれほど高くありません。使われているところといえば、たとえば大学などにて、ネットワークブート型のシンクライアント環境にて、端末のOSイメージ配信に利用されているなど、結構限られます。

ちなみに、IPv6では、ユニキャストの代わりにマルチキャストを使います。ただ、本来の意味のマルチキャストというよりは、ユニキャストの代わりとしてのマルチキャストです。また、マルチキャストは1対1のユニキャストと違い、暗号キーを共有することが難しいので、暗号化が簡単ではありません。マルチキャストはそれほど重要性の高い技術ではなくなってきているのが現状です。

2.マルチキャストの概要

▼マルチキャストを有効にする方法
(1)送信元(239.1.1.1)と同一セグメント
・ブロードキャストパケットが届くので、特に設定はいらない。アプリケーション側が勝手に処理する。
・同一セグメントにはマルチキャストといっても、ブロードキャストと同じ処理になる。(※ここは仕方がない。マルチキャストは、参加した端末のあるルータを選んで送信することができるが、そのルータから先の端末へはブロードキャストと同様になる)

(2)送信元(239.1.1.1)と別セグメントの場合
・ルータでマルチキャストを有効にする。
・端末では、239.1.1.1からのマルチキャストを受信したいことをルータに告げる。(IGMPを利用)
・ルータが複数ある場合には、ルータ間でのマルチキャストのやり取りを行う。(PIMを利用)
・実際のマルチキャストの通信はマルチキャストのプロトコルであるPIMを利用する。

▼マルチキャストプロトコル
代表的なものにはPIM(Protocol Independent Multicastがあります。それ以外には、DVMRPなどがある。
大きく2つの種類があります。
(1)dense(密な)モード
言葉のとおり、密な環境で利用する。企業内LANでの利用をイメージすればよい。
企業内LANは帯域が広いので、すべてのルータにマルチキャストパケットを送りつける。その後、不要なルータからはプルーニング(prune=余分なものを除く)メッセージを受け取り、そのルータを除外する。

(2)sparse(希薄な)モード
言葉のとおり、希薄な環境で利用する。インターネットの世界やWANをイメージすればよい。
インターネットの世界は帯域が狭いので、Denseモードのように全ルータにに送りつけていては、帯域が足らない。
そこで、ランデブーポイント(RP)を設置し、RPまで送信する。そこからはツリーが作成される。
※ランデブーとはフランス語rendez-vous、「待ち合わせ場所」の意味。
送信者からRPへ向かって作成される”送信元ツリー”と受信者からRPへ向かって作成される”共有ツリー”が待ち合わせ場所(rendez-vous)にて落ち合うことが語源。

◆5.Q&A
(1)複数のルータがある場合、端末(PC)はどのルータと処理をする?
同じグループ内でIPアドレスが大きいほうが代表ルータが選出されます。PCは代表ルータと通信します。

(2)端末からIGMP参加メッセージを送る方法は?
通常はアプリケーションが自動で実施する。
フリーソフトでもいくつかある。

(3)マルチキャストはTCP?UDP?
UDPです。TCPで使う3wayハンドシェークが行えません。

(4)マルチキャストの設定はデフォルトで有効?
ルータで、デフォルトは無効になっている。
つまり、インターネットでは、デフォルトのルータでは、マルチキャストが無効になっているので、使えない。
IP-VPNサービスにおいても、マルチキャストが使えるサービスもあれば、利用できないサービスもある。その場合、広域イーサなどのL2サービスを利用することも選択肢ですね。

▼設定メモ
IGMP  Snoopingはマルチキャストを利用するL2SWに設定し、有効にする。
マルチキャストを有効にしないSWでは無効にする。

具体的には、L3SWの場合、Vlan単位でip pim dense-mode
L2は全体にigmp-snooping、Vlan単位でigmp-snooping enable

3.マルチキャストアドレス

過去問(平成15年度午前)
問28 IPv4(Internet Protocol version 4)のマルチキャストに関する記述のうち、適切なものはどれか。

ア すべてのマルチキャストアドレスは、あらかじめ用途が固定的に決められている。
イ マルチキャストアドレスには、クラスDのアドレスが使用される。
ウ マルチキャストパケットは、ネットワーク上のすべてのコンピュータによって受信され、IPより上位の層で、必要なデータか否かが判断される。
エ マルチキャストパケットは、ホップ数に関係なくIPマルチキャストルータによって中継される。






マルチキャストに関しては、情報処理技術者試験での出題がほとんどありません。午前で何問か出されているのと、午後は平成16年午後Ⅱ問2でほんのごく一部出題されているくらいです。

この問題の正解はイです。

▼マルチキャストで使用するIPアドレス
クラスDの先頭4ビットが1110で始まるものです。具体的には、「224.0.0.0 ~ 239.255.255.255」です。
・プライベートで利用できるのは、239.0.0.0/8

マルチキャストパケットのうち224.0.0.0/24を宛先とするパケットは制御用のパケットで、同一セグメント内だけに送られます。(ルータを超えられません)。もちろん、全てのマルチキャストパケットがルータを超えられないわけではなく、ストリーミングなどで使う場合には,IGMP使ってルータを超えていきます。

マルチキャストアドレスはRFCで決められています。以下に、いくつか紹介します。

224.0.0.0 予約されたアドレス(reserved)
224.0.0.1 同一セグメントの全てのホスト
224.0.0.2 同一セグメントの全てのルータ
224.0.0.5 同一セグメントの全てのルータへのOSPFのHelloパケット
224.0.0.6 同一セグメントのDR/BDRへのOSPFのパケット
224.0.0.18 VRRP Advertisement(VRRP広告)


▼マルチキャストで利用するMACアドレス
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ブロードキャストではFFFFFF、ユニキャストでは宛先のMACアドレス。では、マルチキャストの場合は?
答えは、IPアドレスから変換される特別なアドレスを使うのです。
例えば、224.255.0.1であれば、
01-00-5e-7f-00-01
・「01-00-5e」は固定
・「7f」は3オクテット目の最初の1ビットを0にする。つまり、255は「11111111」→「01111111」=7f
・「00-01」はIPアドレスの3オクッテット目と4オクテット目をそのまま

4.IGMP

❶概要
・IGMP(Internet Group Management Protocol)はルータと端末間において、マルチキャストグループへの参加と脱退手続きを行うプロトコル。過去問では、IGMPに関して「ホストがマルチキャストグループへの参加や離脱を通知したり、ルータがマルチキャストグループへ参加しているホストの有無をチェックするときに使用するプロトコル(H20NW午前 問30)」と述べている。
・IGMPでは、参加メッセージを送信したホストを、マルチキャストのグループごとに管理している。
※ただ、実際に管理しているのは1台のホストのみ(Ciscoの場合?Last Reporter)
なぜ1台かというと、1台以上あるかどうかが重要。すべてのホストを管理する必要がない。1台以上あれば、マルチキャストパケットを受信し、0台であれば破棄する。
・ホストはIGMPの参加メッセージを送るし、マルチキャストのルータもホストに送信し、メンバの参加状態を確認する。ここはversionによっても異なり(たぶん)、動作も複雑なので、ここでの説明は割愛する。
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❷IGMPスヌーピング
せっかくマルチキャストしていても、ルータ配下ではブロードキャストされてしまう。
これを、該当ホストのみに送るための機能がIGMPスヌーピングである。
IGMP snoopingに対応した装置(特にL2スイッチがポイント)であれば、該当のグループによみパケットを転送するので、無駄なトラフィックが流れない。マルチキャストの本来の概念だと思う。
※snoopとは「のぞき見する」の意。IGMPパケットをのぞき見(IGMP joinを確認)して、該当ポートにのみマルチキャストパケットを転送する。
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