ネットワークスペシャリスト - SE娘の剣 -

左門至峰によるネットワークスペシャリストの試験対策サイトです。勉強方法、合格体験談、合格のコツ、過去問解説、基礎知識などの紹介します。

DHCP

1.DHCPとは

・DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)とは、言葉の通り、動的にホスト(Host)やPCのネットワークの設定(Configration)をするプロトコル(Protocol)です。
・過去問ではDHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)に関して、「DHCPは、IPアドレスなどのネットワーク接続に必要な情報、IPアドレスの有効時間を示すリース期間及びサブネットマスクなどのオプション情報をDHCPサーバから自動的に取得し、PCに設定するためのプロトコル(H21春AP午後-問5)」と述べている。

・パソコンの設定は、ネットワークの設定は、図のように「IPアドレスを自動的に取得する」にします。
dhcp_ネットワークスペシャリスト

・UDP67番がサーバでUDP68番がクライアントで使うポート
・DHCPの前身になるのがBOOTP(BooTstrap Protocol)。DHCPはBOOTPを大幅に拡張しており、扱えるオプションなどがかなり増えている。
ネットワークスペシャリストを目指す女性SEあれ? 

複数のDHCPサーバがあるとき、クライアントはどのサーバからアドレスを取得するのですか?
一般的には,最も早く応答したDHCPサーバからIPアドレスを取得する。ネットワーク的な距離が近いものから取得することになるが、そのときのタイミングにより、結果は変わると想定される。
ef6167f8.jpg 

ということは、DHCPサーバを冗長化したときに、マスターとなるDHCPサーバから払いだしたのか、バックアップ側のDHCPサーバから払い出したのかが分からないということですね。
そう。これでは、払い出しログを確認するときなど、管理する人にとっては面倒である。
そこで、バックアップ側のDHCPサーバでは、払い出しのタイミングをずらすという遅延設定を入れることがある。

2.DHCPを利用するメリット

女性目閉じる■DHCPを利用するメリット
・全端末に設定をする必要がない。(特に変更時が便利。1000人の設定を変えるのは大変である。新しいパソコンに入れ方たときもそうだし、パソコンをフロアを移動して使う場合なども)
⇒過去問では、「IPアドレスなどを手作業で設定する煩雑さをなくす。(H21春AP午後-問5)」と述べている。
・IPアドレスの一元管理が行える(DHCPサーバのログより)
・IPアドレスの有効利用(企業ではプライベートアドレスを使うので、あまりメリットではないかも)
⇒過去問では、「リース期間を設定することによって、一定期間ごとのIPアドレスの再利用を行うので、DHCPサーバに登録するIPアドレス数の削減ができる。(H21春AP午後-問5)」と述べている。

■DHCPを利用せずに、固定IPアドレスを利用するメリット
・DHCPサーバがダウンしてもネットワークを利用できる。
(DHCPサーバのコストは結構かかる。全セグメントに1台ずつ置くのは大変なので、リレーエージェントの設定をするが、そうするとネットワークがダウンしたら使えない)
・IPアドレスと端末(ユーザ)の特定がしやすい。
・(DHCPのデメリットになるが、)持ち込みPCをつないだとしても、自動でネットワークに接続できてしまうため、セキュリティが弱くなる。とはいえ、固定でも自分で設定すれば同じなわけであるが、セキュリティの弱さという意味では、DHCPのほうが弱い。(気持ちの問題かもしれないが)

■DHCPか固定か
・サーバなど、固定IPにしないと、通信が影響がでやすいものは固定にする。
・セキュリティ上の懸念がない環境であれば、運用面を考えてDHCPとする。

3.DHCPサーバ サーバ側の設定

■1.サーバ側の設定
・サブネット/ネットマスク
・払い出すIPアドレスの範囲
・ドメインサフィックス
・デフォルトゲートウェイ
・DNSやWins
・リース時間
・払い出し除外のIP
・固定でのIP払い出し(MACアドレスと対応)
web1 

ということは、前半5つの情報が、PCに払い出されるネットワーク情報と考えていいですね。
そういうことになる。
過去問(H27春AP午後問5)をみてみよう。

過去問(H27春AP午後問5)
PCは,(ア)DHCPサーバから,自身のIPアドレスを含むネットワーク関連の構成情報(以下,構成情報という)を取得して自動設定している。

設問2 本文中の下線(ア)について,自動設定できる構成情報を解答群の中から二つ選び,記号で答えよ。
解答群
 ア DNSキャッシュ時間              イ サブネットマスク
 ウ デフォルトゲートウェイのIPアドレス         エ プロキシサーバのIPアドレス






正解は、イとウである。DHCPにより、どんな情報が取得できるかは、しっかりと理解しておこう。

■2.CiscoのCatalystスイッチの場合の設定例
(1)設定例

Switch#configure terminal

Switch(config)# ip dhcp pool seg1  ←任意の名前を付ける
Switch(dhcp-config)# network 192.168.1.0 255.255.255.0 ←払い出すネットワークとサブネットを指定
Switch(dhcp-config)# default-router 192.168.1.254 ←払い出すデフォルトゲートウェイを指定
Switch(dhcp-config)# dns-server 8.8.8.8 ←払い出すDNSサーバを指定
Switch(dhcp-config)#exit

※スイッチでDHCPサーバの機能を有効にしても端末にIPアドレスが払い出されない場合があります。そんな場合は、スイッチにIPアドレスを設定しているかを確認してください。

(2)払出しの状態確認
どの端末(MACアドレス)にどのIPを払い出しているかは、show ip dhcp bindingコマンドで確認できます。

Switch#sh ip dhcp binding
Bindings from all pools not associated with VRF:
IP address          Client-ID/              Lease expiration        Type
                    Hardware address/
                    User name
192.168.1.1         0168.f728.***.d3       Jun 30 2019 10:01 AM    Automatic
192.168.1.2         01a0.b3cc.***.de       Jun 30 2019 09:50 AM    Automatic

上記の例だと、192.168.1.1と192.168.1.2に対して、いつ、どのMACアドレスに払出しをしたかが確認できます。

4.DHCPの手順

過去問(H21春AP午後-問5)を参考に、DHCPメッセージのやり取り手順を述べる。

手順 メッセージ 送信方法 動作
1 DHCPディスカバ(DISCOVER) ブロードキャスト 端末がDHCPサーバを探す(DISCOVER)フレームで、ブロードキャストでセグメント内の端末に一斉送信します。DHCPサーバを探すと同時にIPアドレスを要求します。
2 DHCPオファー(OFFER) ユニキャスト DHCPサーバから端末に対して、「このIPアドレスはどうでしょうか」と提案(OFFER)をするフレームです。このとき、IPアドレスだけでなく、サブネットマスクやDNSなどの情報も含まれます。
3 DHCPリクエスト(REQUEST) ブロードキャスト 端末からDHCPサーバに対し、提案されたIPアドレスを使用したいという要求(REQUEST)をするフレームです。このフレームには、DHCPサーバとのやり取りの情報(Transaction ID)が含まれています。よって、DHCPサーバが2台あったとしても、このフレームによって、DHCPサーバが提案したIPアドレスが採用されたかどうかがわかります。
4 DHCPアック(ACK) ユニキャスト DHCPサーバから、要求を確認(ACKnowledge)したので、そのIPアドレスを使ってくださいというフレームを送って、払出しが完了です。

※2と4は、Mircosoft社のDHCPサーバとISCのDHCPサーバによってユニキャストでは無い場合がある。

上記の1)DHCP DISCOVERでは、DHCPサーバが分からないのでブロードキャストする必要があります。
しかし、なぜ3)DHCP REQUESTもブロードキャストする必要があるのですか?
DHCPサーバが複数存在する場合があります。その場合、IPアドレスを決定したことをセグメント上に伝える意味があります。そうしないと、他のDHCPサーバは、何度もクライアントにIPを払い出そうとしてしまう。
女性直立


話は変わりますが、
DHCPサーバが複数台あっても問題ないのですか?
基本的には上記のDHCP REQUESTでブロードキャストを利用していることにより問題は発生しない。クライアントはどのDHCPサーバを選択するかというと、フレームが速く到着したものを採用する。
ただ、各DHCPサーバソフトを提供している会社は推奨していない。障害が発生する可能性があるからだ。Linuxではそのための冗長化(フェールオーバ)の機能を提供している。

過去問(H27春AP午後問5)を見ましょう。

過去問(H27春AP午後問5)
DHCPサーバによる構成情報の付与シーケンスを図2に示す。DHCPメッセージは,OSI基本参照モデル第4層の【 c 】プロトコルで送受信される。
dhcp
図2 DHCPサーバによる構成情報の付与シーケンス

設問3(2)図2中の④DHCP REQUESTの内容から,2台のDHCPサーバが知ることができるDHCP OFFERの結果について,20字以内で述べよ。






解答例:自身の提案が受け入れられたかどうか

つまり、①DISCOVERと②OFFERだけで払出し処理をすると、提案が受け入れられたかがわからないので、無駄にIPアドレスを払い出してしまうことになります。
サーバ側では、払い出したつもりになっているからです。

過去問(H28春SC午前2問19)
問19 IPv4ネットワークでIPアドレスを割り当てる際に, DHCPクライアントとDHCPサーバ間でやリ取りされるメッセージの順序として,適切なものはどれか。

ア DHCPDISCOVER, DHCPACK, DHCPREQUEST, DHCPOFFER
イ DHCPDISCOVER, DHCPOFFER, DHCPREQUEST, DHCPACK
ウ DHCPREQUEST, DHCPACK, DHCPDISCOVER, DHCPOFFER
エ DHCPREQUEST, DHCPDISCOVER, DHCPOFFER, DHCPACK






正解はイ

◆おまけ
DHCPでIPアドレスを取得できなかった場合、Mircosoft社の製品ではAPIPA(Automatic Privete IP Addres)による自動プライベートIPアドレス(169.254.X.X)が割り振られる。ただ、このIPアドレス(=リンクローカルアドレス)では他のPCと通信はできない。

5.DHCP リレーエージェント

■1.DHCP リレーエージェントとは
・DHCPの代理中継のこと。
・過去問では、「ルータは、DHCPクライアントからネットワーク接続に必要な情報などの取得要求を受け取ると、DHCPリレーエージェント機能によって、DHCPサーバにその要求を転送する。また、DHCPサーバからの応答をDHCPクライアントに転送する。(H21春AP午後-問5)」と述べている。
・Ciscoでは、IFに以下の設定を行うことで、DHCPリレーエージェントを有効にするとともに、DHCPサーバを指定している。

Router(config)#int gigabitEthernet0
Router(config-if)#ip helper-address 192.168.1.100

■2.仕組み
PC→→ルータ(代理中継)→WAN→DHCPサーバ
・ルータまではブロードキャスト 
・ルータからDHCPサーバまではIPパケット

■3.なぜDHCPリレーエージェントが必要なのか
・DHCPのパケットはブロードキャストで送られるため、WANを超えられない。DHCPサーバをブロードキャスト範囲内に設置できればいいが、コスト的そうはいかない。DHCPサーバだらけになってしまう。
また、DHCPサーバを冗長化するのはコスト的に大変なので、リレーエージェントを使うことで、DHCPのスタンバイ機の設定ができる。

■4.DHCPサーバは、どうやって払いだすIPを決めるのか。
DHCPサーバは、複数のセグメントからIPの要求が来る。
払いだすIPをどうやってきめるのだろうか?

→DHCPリレーエージェントには、中継元のルータのLAN側IPアドレス(覚える必要はないが、giaddr=Gateway IP Address)が入っており、そのIPアドレスと同一セグメントのIPアドレスを払いだします。

Q.では、DHCPリレーエージェントの仕組みを含めてネットワーク構成図、DHCPサーバの設定、ルータの設定、送受信されるパケットを書いてみよう。






dhcp_relay

話が変わり、DHCPは早い者勝ちで払いだす。優先的に使わせたいDHCPサーバがある場合には、遅延設定をすることで該当するサーバへの問い合わせが早い者勝ちに負ける設定をする。

・DHCPリレーエージェントの仕組みを理解する過去問があるので、紹介する。

過去問(H18NW午前 問44)
問44 DHCPを用いるネットワーク構成で、リレーエージェントが必要になるのは、ネットワークにどの機器が用いられている場合か。

ア スイッチングハブ   イ ブリッジ    ウ リピータ    エ ルータ






正解: エ

6.DHCPの実際のフレーム構造

では、実際のDHCPのパケットを見てみましょう。
❶DHCP DISCOVER
クライアントがサーバを探す(Discover)。宛先MACアドレスがFFFFFFFFFFFなので、ブロードキャストである。ブロードキャストパケットはルータでは破棄されるため、ルータを超えられない。なので、同一セグメント内でのみDHCPが利用できる。

❷DHCP OFFER
DHCPサーバからのユニキャスト。デフォルトGWなどの情報も合わせて提案される。
以下のキャプチャの上部には192.168.1.2が提案され、下の方でオプションのサブネットマスクやRouter(デフォルトGW)などが提案されている。

❸DHCP REQUEST 
クライアントからの了解を送る。ブロードキャスト。
4
ブロードキャストで送るのは、この通信によってIPアドレスを取得したことを周りのメンバーに伝えるためですよね?
ということは、パケットの中に、取得したIPアドレス情報が入っていますね。
そう思っていたのですが、実際には入っていません。どうやら、transaction idだけで把握しているのでしょう。一連の流れは共通のtransaction idを用いられる。このidだけが埋め込まれており、どのIPアドレスを使うかは直接記載されていないようだ。(要確認)


❹DHCP ACK ユニキャスト

7.DHCPのフレーム構造(詳細)

▼DHCP Discoverの場合のフレーム構造
ちょっと汚いので、時間があれば直します。
dhcp

▼フィールドの詳細
RFC http://tools.ietf.org/html/rfc2131 をもとに作成

Field 長さ 意味 解説
op 1 メッセージタイプ クライアントからのRequestは1、サーバからのReplyは2
htype 1 ハードウェアタイプ 通常のイーサネットは1
hlen 1 ハードウェア長  通常のイーサネットは6
hops 1 hops 通常は0
xid 4 Transaction ID 一連の通信で共通で利用されるID
secs 2 0または、経過した秒数
flags 2 フラグ 回答をブロードキャストで要求する場合は、一番左のビットに1をたてる
ciaddr  4 クライアントのIPアドレス  すでにIPアドレスを持っていて、Renewなどにより再取得するときなどに限定してセットされる。
yiaddr 4 your IP address 払い出すIPアドレスがセットされる
siaddr 4 起動処理に使うための次のサーバ。DHCPサーバのIPアドレスがセットされるわけではない。
giaddr 4 リレーエージェントのIPアドレス  
chaddr 16 Client Hardware addres ClientのMACアドレス
sname 64 サーバのホスト名
file 128    
options variable オプション DHCPのリースタイム、サブネットマスク、デフォルトGW、DNS情報など

8.DHCPスヌーピング

ネットワークスペシャリスト試験の過去問(H25年秋NW午後Ⅰ問2)では、以下の記述がある。

L2SW及びSWがもつDHCPスヌーピング機能を使用する。この機能によって,L2SW及びSWは,正規のDHCPサーバと端末間で通信されるDHCPメッセージを,通過するポートの場所を含めて監視する。さらに,正規のDHCPサーバからIPアドレスを割り当てられた端末だけが通信できるように,ポートのフィルタを自動制御する。

スヌーピングとは,「のぞき見する」という意味です。つまり、DHCPのパケットをのぞき見し、不正な通信をブロックします。具体的に、今回のDHCPスヌーピングの機能は以下です。

❶正規のDHCPサーバを接続するポートを指定する機能
指定したポート以外にDHCPサーバを接続しても、DHCPの払い出しをさせません。もし、指定したポート以外からDHCP OFFERやDHCP ACKが届いたとしても、そのフレームをSWが破棄します。

❷正規のDHCPサーバからIPアドレスを割り当てたPCだけを通信させる機能
DHCPのパケットをスヌーピングし、正規のDHCPからIPアドレスを払い出されたPCだけを通過させます。PCの特定はMACアドレスで行います。さらには,利用者が勝手に固定IPアドレスを割当てたPCの通信も拒否します。

CatalystでのDHCPスヌーピングの設定を紹介します。

SW(config)# ip dhcp snooping   ←DHCPスヌーピングを有効化
SW(config)# ip dhcp snooping vlan 10 ←DHCPスヌーピングを有効にするVLANを指定
SW(config)# interface fastethernet0/24 ←上記①の設定
SW(config-if)# ip dhcp snooping trust  ←  〃
SW(config)# interface fastethernet0/1       ←上記②の設定
SW(config-if)# ip verify source port-security   ←    〃

少し補足します。
①の設定は、DHCPサーバを接続する24番ポートをtrust(信頼された)として設定します。この設定をしないポートはuntrust(信用されない)という設定になり、DHCPサーバを接続してもDHCPのフレームが破棄されます。

②の設定は、DHCPスヌーピングにIP Source Guardを付加しています。1番ポートでは、正規の端末以外からの通信を拒否します。「verify」とは「正しいかどうかを確かめる」という意味です。

VRRP(Virtual Router Redundancy Protocol)

1.VRRP概要

・Redundancyとは「余分、冗長」という意味で、VRRP(Virtual Router Redundancy Protocol)は、ルータの冗長化の仕組みで、複数のルータを論理的に1台に見せる技術です。
・ネットワークスペシャリスト試験の過去問では「同一のLANに接続された複数のルータを、仮想的に1台のルータとして見えるようにして冗長構成を実現するプロトコル」とある。(H21NW午前 問16)
・仮想IPアドレスと仮想MACアドレスを持つ(仮想IPアドレスを実IPアドレスを同じにすることが多い)。
・CiscoでいうHSRP。HSRPとの違いは、仮想IPと実IPを共通化できるかどうか。HSRPは必ず別のIPアドレスにする必要がある。

2.VRRPの設計と設定

(1)設定内容
項目 ルータA ルータB
IPアドレス 192.168.1.1 192.168.1.2
仮想IPアドレス 192.168.1.1 192.168.1.1
グループ(VRID) 10 10
優先度(プライオリティ値) 100 90

※グループ番号はルータAとルータBで同一にする。この番号はVRIDであり、R4NW午後Ⅱ問2で穴埋めで問われた。また、VRIDの値は1-255で設定可能。
※優先度(プライオリティ値)が高い方がActiveになる。※R3NW午後Ⅱ問1では、「プライオリティ値」という言葉が正解のキーワードとして使われた。
※VRRPのグループを複数作成することができる。セグメントが多数ある場合は、セグメントごとにマスタルータを変えることでロードバランスが行える。

(2)構成図


(3)Ciscoでの設定例

上記の設計をもとにした設定例です。

ルータA ルータB
RouterA(config)#interface FastEthernet0
RouterA(config-if)# ip address 192.168.1.1 255.255.255.0
RouterA(config-if)# vrrp 10 ip 192.168.1.1
RouterA(config-if)# vrrp 10 priority 100
RouterA(config)#interface FastEthernet0
RouterA(config-if)# ip address 192.168.1.2 255.255.255.0
RouterA(config-if)# vrrp 10 ip 192.168.1.1
RouterA(config-if)# vrrp 10 priority 90

3.VRRPの動作

(1)動作概要

・ルータAとルータBは、自動で仮想MACアドレスを作成する。
・PCは実IPアドレスではなく、仮想IP、仮想MACと通信する。(PCのARPテーブルには仮想MACが表示されるので、確認してみましょう)
・L2レベルのフレームはActiveとStandbyの両方に届く。このとき、Active側は受け取り、Standby側は破棄する。
・Activeがダウンした場合、Standby側が昇格してActiveになる必要がある。Activeがダウンしたかを知るために、VRRP広告(Helloパケット)を使う。ActiveからStandbyに定期的(基本は3秒)にHelloパケットをマルチキャストで送り、VRRP広告を受信できなかった場合、マスタルータがダウンしたと判断してStandby側が自動でActiveに昇格する。
・余談ではあるが、障害が復旧したら、優先度は元に戻る。その結果、マスタールータも切り替わる(というかもとに戻る)。これは、preemptという設定によるが、VRRPの場合、デフォルトでpreemptが有効になっている。

(2)VRRPに関する動作のQ&A

女性直立



VRRPの動作に関して、何点か書きます!

▼Q1.PCは、どうやって2つのルータを振り分けるのですか?






A1.端末は、仮想IPアドレスと仮想MACアドレスに対して通信をするため、マスタルータかバックアップルータかを意識せずに通信をします。

▼Q2.VRRPを使うに際し、PC側で特別な設定は必要ですか?






A2.PCのデフォルトゲートウェイをVRRPの仮想IPアドレスに設定します。それ以外は特別な設定は不要です。

▼Q3.仮想MACアドレスを持つのは、マスタルータだけですか?






A3.単なる「言葉」の問題かもしれません。マスタルータだけ持つとも考えられますし、バックアップルータ含めた両方が持つとも考えられます。
 仮想MACアドレス宛てのフレームが届いた場合、マスタルータは処理しますが、バックアップルータは無視します。なので、バックアップルータは、仮想MACアドレスを持っていないという見方もできますし、持っているが、無視するという見方もできます。

▼Q4.仮想MACアドレス宛てのフレームは、マスタルータとバックアップルータの両方に届きますか?






A4.構成としては、2(2)に記載したように、PCとVRRPのルータ間にスイッチが入ります。スイッチではなくバカHUBであれば、VRRPのフレームは両方のVRRPルータに届くことになります。しかし、バカHUBではなくスイッチですから、SWのスイッチング機能により、マスタルータにのみフレームを転送します。このとき、SW(スイッチ)のMACアドレステーブルは以下です。

MACアドレス ポート
00-00-5E-00-01-XX(仮想MAC) 1

※1番ポートがマスタルータがつながっているポート
※VRRPの仮想MACアドレスは、00-00-5E-00-01-XX(XXには仮想ルータのIDが入る)と定められている。

▼Q5.ということは、バックアップルータがマスタルータになるときに、MACアドレステーブルを書き換えるために、Gratuitous ARPを送るのですね?






A5.Gratuitous ARPは、ARPテーブルを書き換えるためのものです。ARPテーブル上のIPアドレスとMACアドレスの対応は、仮想IPを使っているので変更ありません。
【SWのARPテーブル】

IPアドレス MACアドレス
192.168.1.1(VRRPの仮想IP) 00-00-5E-00-01-XX(仮想MAC)

一方、SWのMACアドレステーブルを書き換える必要があります。
【MACアドレステーブル】

MACアドレス ポート
00-00-5E-00-01-XX(仮想MAC) 2

※切り替わったマスタルータがつながっている2番ポートに書き換える
書き換えるために特殊な処理は不要です。なんらかの通信をすると、スイッチが再学習をします。それがGratuitous ARPのフレームであっても、MACアドレステーブルは書き変わります。
ただ、実際にはGARPを投げています。実際のパケットは以下に記載しました。
https://nw.seeeko.com/archives/arp#3GARP

4.VRRPに関する用語

(1)VRRPアドバタイズメント(VRRP広告)

H30秋NW午後1問2では、「VRRPで規定されているメッセージ名を15字以内で答えよ。」として、「VRRPアドバタイズメント」が問われました。
これを問われるのはきついですね。

少しさかのぼりますが、ネットワークスペシャリスト試験の過去(H16秋NW午後Ⅰ問3)でも、以下の穴埋め問題も出題されました。

試験の過去(H16秋NW午後Ⅰ問3)
「ルータの経路制御情報には,あて先のネットワークアドレスにDMZが指定されたパケットの転送先として,仮想FWのIPアドレスであるZを設定しておきます。予備機は,VRRPにおける死活監視情報(ハートビート)である[ d ]によって,現用機が稼働していることを認識します。」






このときの解答は、「VRRP Advertisement 又は VRRP広告」です。

過去問(H23NW午後2問2)を見てみよう。

過去問(H23NW午後2問2)
VRRPでは,VRRPメッセージ(VRRP advertisement)がマスタルータから[ イ ]ルータヘ送信され,マスタルータの稼働状態が報告される。VRRPメッセージは,宛先IPアドレスが224.0.0.18の[ ウ ]キャスト通信である。Priority値は,大小関係で優先順位が決まり,PreemptモードではL3SWの起動タイミングに関係なく,最も[ エ ]値をもつルータが,マスタルータになる。






[正解]
イ:バックアップ
ウ:マルチ
エ:大きい


▼超参考情報
H23NW午後Ⅱ問2設問2(5)にて、「VRRPメッセージに含まれる情報」が問われた。
解答は、
 ・VRRPグループID
 ・Priority値
 ・仮想IPアドレス
 ※実際は、これ以外にもある。。

参考ではあるが、この仮想IPアドレスは使っているのであろうか?
なぜこういう質問をするかというと、仮想IPアドレスは、VRRPを設定するルータに固定で設定するからだ。だから、わざわざVRRPメッセージで送る必要がない。
女性ハテナ 

例えば、マスタルータとバックアップルータで仮想IPアドレスを変えたらどうなりますか?
固定で設定した仮想IPアドレスを利用するのか、VRRPメッセージで受け取った仮想IPアドレスを使うのか、どちらでしょう。
実験してみました。※ちょろっと検証しただけなので、間違っていたらごめんなさい。
①YAMAHAルータ、Vyatta
固定で設定した仮想IPアドレスを引き継ぐ。VRRPメッセージの仮想IPアドレスを使わない。
②Cisco、Allied
VRRPグループ内で、仮想IPアドレスが違うと、VRRPが有効に機能しない。

(2)トラッキング

R4NW午後2問1には、以下の記載があります。

L3SW31 において,⑮図5中の a 又は b での障害をトラッキングするように VRRP の設定を行う。これによって, a又は b のインタフェースでリンク障害が発生した場合でも,業務サーバから PC へのトラフィックの分散が損なわれないと考えた。

トラッキング(tracking)とは、「追跡」という意味です。aやbでの障害を追跡(というか、検知)して、VRRPのマスタルータを切り替えます。
VRRPの切り替わりは、VRRPアドバタイズメントが届かなくなったタイミングです。なので、1ポートがダウンしただけでは切り替わりが行われません。
この過去問の場合、トラフィックを負荷分散させるために、トラッキングを行います。

設定例は以下です。※もちろん覚える必要はありません。イメージを掴むためです。

track 1 interface portA line-protocol ←L2SW34との接続をトラッキング
track 2 interface portB line-protocol ←L2SW35との接続をトラッキング
interface Vlan 30
 ip address 172.17.0.252 255.255.255.0 ←実IPアドレスの設定
vrrp 1 ip 172.17.0.254 ←仮想IPアドレスの設定
 vrrp 1 priority 100  ←優先度の設定
 vrrp 1 track 1 decrement 20 ←トラッキングの設定1(L2SW34とのリンクがダウンしたら,優先度を20下げる。結果として、優先度90であるスレーブのL3SW32がマスターになる。)
 vrrp 1 track 2 decrement 20

実際の設計および設定の様子は以下
https://nw.seeeko.com/archives/handson