1.SAN(Storage Area Network)
Storage(ストレージ)とは,補助記憶装置のことである。ネットワークスペシャリスト試験では,SAN(Storage Area Network)を含むストレージが何度か出題されている。
SANとは,「磁気ディスク装置や磁気テープ装置などのストレージ(補助記憶装置)を,通常のLANとは別の高速な専用ネットワークで構成する方式(H18ソフトウェア開発技術者試験 午前問59)」である。
Networkという言葉が付いているように、「ネットワーク」を指すのであって、「ハード」を指すのではない。SANを導入するというと、ストレージを指すイメージがあるが、SANのそものも言葉は、あくまでもネットワークである。(比較となる言葉はLAN:Local Area Network)
2.SANが登場した経緯
(1)複数サーバから同一HDへのアクセスのニーズ(例えば、サーバの冗長化、負荷分散などのニーズにより)
(2)HDの集中化による効率化というニーズ。(複数のサーバでそれぞれディスクを管理するより、一元化すれば効率化。結果としてコストも下がる。)
→これらにより、ネットワーク上にディスクを持つニーズが登場。これがNASやSANのニーズである。 ※ネットワークでというのがポイント。従来はDASによる直接接続であったものを、ネットワークにする。NASもSANもどちらもNetworkという言葉が入っている。
(3)大容量のニーズ
でもこれって、
サーバのハードディスクを
大容量にすればいいだけでは?
大容量を接続するには以下がある。
①サーバのハードディスクを大容量にする。
②外付けのディスクを購入する。いわゆるDAS(Direct Attached Storage)
これは、SCSI(Small Computer System Interface)接続が中心。
しかし、①は複数にまたがる場合には、RAIDを組むだろう。でも、容量にも限界がある。
②は、外付けすればさらに容量は増えるが、これでも限界がある。
つまり、SCSIによる容量の限界、SCSIでは速度が遅かったり(Ultra320でも320M)、
最大8(または16台)の制限、長さも数mまで。
また、テープでは、容量不足で利便性も悪い。
これにより、ファイバを使ったSANが強く求められるようになった。
3.NASとSANの違い
NASとSANの違いを以下に整理します。
❶使用するケーブルの違い
・NAS(Network Attached Storage)はLANケーブル
・SAN(Storage Area Network)は光ファイバーが主(4Gbps・8Gbpsなど)で,iSCSIはLANケーブル
❷プロトコルの違い
・NASの転送プロトコルはNFS(Network File System: UNIX系のファイル共有の仕組み)やCIFS(Common Internet File System:Windows系のファイル共有の仕組み)です。
・SANはFC-SANの場合はFCプロトコルで,IP-SANの場合はiSCSI,FCIP,iFCPです。
❸ファイルの見え方
・NASはファイルサーバと同じと考えてください。Windowsでいう「マイネットワーク」上に現れます。
・SANで接続されたストレージは外付けUSB-HDDを接続した状態と考えて下さい。Windowsでいう「マイコンピュータ」上に現れます。
❹ファイル単位とブロック単位
NASはファイル単位・SANで接続されたストレージはブロック単位の読み書きというのを何かの本で読んだことがある人も多いでしょう。こう言われると何を言っているか分からないかもしれません。例を挙げて説明します。1Gのファイルの一部を変更した場合,NASでは1Gのファイルとして変更しますが,SANでは変更した部分のブロックのみの変更を実施します。
つまり,ブロック単位で処理するSANは高速です。
※そもそもSANからすると,ファイルという概念がないので,ファイル単位に扱えません。これは欠点でもあり,ファイル単位のアクセス制御ができません。
❺OS
・NASはWindowsやLinuxの汎用OS上でファイルサーバと同じように動くことをイメージして下さい。
・SANストレージは独自OSが搭載されています。ドライブの割り当てなどはNetAppなどの場合ブラウザベースで設定をします。
4.SANとNASの融合
SANだってNASのひとつでは?と思わないであろうか?
なぜなら、SANによって各種ストレージと接続しても、LAN上のPCと接続するのはLANだからである。
それは、その通りで、SANもNASである場合がある。
例えば、NASはNASヘッドとSANを接続する場合も多い。LANと接続されている部分はNASで、ストレージと接続されている部分がSANである。サーバとストレージがSANで直結されて、サーバとストレージ間での情報転送が主であれば、それは完全なSANであろう。
5.iSCSI
▼ iSCSIとは
・IP上でSCSIプロトコルを動かすのがiSCSIです。既存のLANケーブル,スイッチが使えるのがメリットです。
・インターフェース形状はLANと同一です。(iSCSI専用のポートがある場合と,本当にLANポートをそのまま使う場合があります。LANポートを使う場合は,iSCSIのイニシエータというソフトが必要です)。
・NASにおいて,転送プロトコルをCIFSからiSCSIに変更すると,これはSANと呼ばれます。
・iSCSIをはじめとするIP-SANの登場で,今までFCで構築していたストレージのネットワークをLANに統合することができるようになりました。
SANは速いというイメージがあるけれど,LANケーブルを使うなら,NASでもいいのでは?
わざわざ新しいiSCSIというプロトコルを作って,LANケーブルでSANをする必要はあるの?
いや,それがプロトコルを変えるだけで通信速度がかなり速いそうです。どれくらい速いかは不明ですが…。
▼iSCSIイニシエータ
SANを構成するには専用のIF (インターフェース)が必要です。iSCSIも同様で,iSCSI専用のIFが必要になります。プロトコルが違うので,LAN用のIFでは対応できません。とはいえ,せっかくIPで処理させても同じIFを利用できなければあまりメリットがありません。iSCSIイニシエータとは,通常のLANのIFでiSCSIを利用できるようにするソフトウェア(デバイスドライバ)です。Windows Vista以降では,標準で実装されています。
ソフトウェアで処理するので,処理速度は落ちます(というよりサーバの負荷があがります)。
言葉の定義としては,ソフトウェアを指すのではなく,SCSIの要求を出す機器を意味することが一般的のようです。SCSI要求を出す機器がiSCSIイニシエータで,それを受ける機器がiSCSIターゲットになります。平成22年午後Ⅱ問1では,以下のように述べられています。
SANには,FC-SANと[ a ]がある。[ a ]を構成する代表的な技術がiSCSI (internet SCSI)である。最近は,iSCSIプロトコルがPCとサーバOSに実装されているので,iSCSIを容易に利用できるようになった。 iSCSI は,信頼性のあるデータ通信を行うために[ b ]プロトコルを使用する。iSCSIでは,サーバで稼働し,[ c ]コマンドを発行して処理を要求するイニシエータと,ストレージ装置で稼働して,その処理を実行する[ d ]間で,ブロックデータの入出力を実現させている。今回は,稼働実績を重視して,FC-SANを利用することにした。 |
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正解
a IP-SAN
b TCP
c SCSI
d ターゲット
▼iSCSIオフロードエンジン
iSCSIイニシエータのデメリット対策として期待できるのが,iSCSIオフロードエンジンです。iSCSIの処理をサーバではなく,NIC側で処理します。そうすれば,サーバ側に負荷がかかることなく,iSCSIイニシエータのソフトウェアも不要になります。
※最近のサーバスペックを考えると,別にiSCSIオフロードエンジンなんて不要という声があることも事実です。
iSCSIオフロードエンジンの目的は他にもあります。SANブートのように,iSCSIのディスクからのブートが可能になります。通常のLANカードの場合,OS上のソフトウェアで処理しなければならないため,OSが起動していないと何もできません。
6.FC-SANとIP-SAN
ネットワークスペシャリスト試験の過去問(H22年NW午後2問1)には、「SANには,FC-SANと[ 穴埋めa:IP-SAN ]がある」と述べられている。
FCは光ケーブルを使ったSANで、IP-SANはIPを使ったSANである。IP-SANには、iSCSI、FCIP、iFCPの3つがある
・FCIP(Fibre Channel over IP)
・iFCP(Internet Fibre Channel Protocol)
どちらも、FCの上でTCP/IP通信を行う。
FCIPは光ファイバーケーブルの延長のイメージで、1対1通信。
iFCPはインターネットのようにマルチポイントで接続が可能。
最近では,FCoEというのも耳にします。
これもIP-SANですか?
たしかに、FCプロトコルをイーサネットで伝送するFCoE(FC over Ethernet)も導入が増えつつある。FCoEではIPを利用していないので、IP-SANではなくFC-SANに分類される。