別の文献で解説した部分は割愛させていただいた。
〔【2】ロスレスイーサネット技術〕
ストレージのデータ転送のような場合に,大きな通信帯域と信頼性を実現するためにイーサネットを拡張する技術が, IEEE 802.1委員会のDCB (Data Center Bridging)タスクグループで規格化されている。
拡張イーサネット、つまりDCB(Data Center Bridging)ですが、CEEとかも聞いたことがあります。
CEEやCiscoが提唱するDCE(Data Center Ethernet )と同じと考えてよいだろう。また、DCBは、従来のイーサネットとの互換性があったはずだ。ただ、10G以上のインターフェースしかないので、普通のLANケーブルを差してそのまま使うというイメージでは使えない。
[Question1] なぜ拡張イーサネットが必要か
A1 後半にも述べられているように、FCのようなロスのない高い信頼性を求められる通信には、従来のイーサネットでは不十分なのだ。なぜなら、イーサネットは輻輳を管理する十分な仕組みが備わっていない。詳しくは、続きを読もう。
今回の要件を満たすには,ホスト,ストレージ及びRBに,この拡張されたイーサネット(以下,拡張イーサネットという)を使用する必要がある。拡張イーサネットでは,優先度別のキュー制御や,スイッチ内バッファの[ ア ]によるデータロスを防ぐためのスイッチ間バッファ管理の仕組みが規定されており,従来のイーサネットにはないロスレス転送を実現している。
[Question2] [ ア ]に入れる適切な字句を答えよ。
A2 DCBの骨格をなす技術には以下がある。
①PFC(Priority Flow Control)
従来のLAN(イーサネット)と、信頼性が求められるFCとの両方が流れる。これらのフレームを同じ優先度で扱ってしまうと,イーサネットのトラフィック増に伴い,重要度の高いFCのフレームのロスや遅延が発生する。それを防ぐために,フレームの種類によって優先度を付与し,重要なフレーム(特にFC)を優先する。
具体的には、優先度別にバッファを用意し,受信バッファが枯渇したときには優先度別に送信を抑止するためのPAUSEフレームを送出する。
②CN(Congestion Notification)
輻輳を検知して、送信元に通知する仕組み。トラフィックの送信元に通知するというのがポイントで、これまでのイーサネットは、マルチキャストフレーム(PAUSEフレーム)をつかって同一セグメントにのみ、一律の通知を行っていた。同一セグメントのみなので、送信元まで通知されない。
③ETS(Enhanced Transmission Selection)
グループを分けて、グループごとに帯域保証する。いわゆるQoS。
問題文では、①と②が解説されている。[ ア ]は②に関連した内容であり、「あふれ 又は 枯渇」が入る。なんとなくイメージで「あふれ」と答えられた人もいたであろう。
また,インタフェースの速度としては, FC (Fibre Channel)の2Gビット/秒を超える,最低でも[ イ ]Gビット/秒のイーサネットの採用が必要と考えられる。
[Question3] [ イ ]に入れる適切な字句を答えよ。
A3 拡張イーサネットは、10Gイーサネットを拡張したもので、1Gは対応していない。よって、10Gという答えに気が付いた人もいたであろう。正解は「10」。
FCのインターフェースは、ここにあるように2Gbps(ものによっては4Gbpsや8Gbps)程度であり、10Gイーサネットを使った方が安価で高速であることから、FCoEが注目されてきている。
ホストに実装するアダプタであるCNA (Converged Network Adapter)は,拡張イーサネットに対応するとともに, HBA (Host Bus Adapter)とNICの両方の機能を備えている。
インターフェースについて、軽くおさらい。3種類を整理しよう。
①NIC(Network Interface Card)
通常のLAN(イーサネット)で使うRJ45のポート
②HBA(Host Bus Adapter)
FC(Fibre Channel)用のポート。H(Host)とあるように、ホスト(サーバ側)の形状を指す。
参考までに写真のリンクを貼っておく。
http://www8.hp.com/jp/ja/products/adapters/product-detail.html?oid=5294068
たしか、FCだけでなく、SAS(Serial Attached SCSI)の場合もある。
③CNA(Converged Network Adapter)
Converged (集められた)という言葉のとおり,FC用のインタフェースであるHBA(Host Bus Adapter)とNICを集め,一つに統合したもの。1個のアダプタでHBA(Host Bus Adapter)とNICを兼ねることができる。
こちらも参考となる写真のリンクを貼っておく。
http://www8.hp.com/jp/ja/products/adapters/product-detail.html?oid=5158435
CNA がもつこれらの機能は,0Sからはそれぞれ別のインタフェースとして認識され,別のMACアドレスが使われる。CNAを使うことで,ストレージとのI/0用のFCフレームを,イーサネットフレームにカプセル化して転送することができる。
〔【3】イーサネットを使用したSANのデータ転送〕
FCoE (Fibre Channel over Ethernet)は,拡張イーサネットを使用してFCフレームを転送する技術である。FCフレームをカプセル化して転送するフレームのイーサタイプには, FCoEを示す値が設定される。
フレーム構造はどうなっているんですか?
フレーム構造に関しては、この問題の後半に述べられている。それを参考に、通常のイーサネットフレームとの違いがわかるように図化した。データ部分は、通常のイーサネットより大きい。標準的なFCフレームは,24バイトのヘッダ+2112バイトのペイロードで構成される。このフレームを(分割せずに)取り扱う必要がある。
FCoEを使うためには, FCoEに対応したインタフェースを備えたスイッチ(以下, FCoE-SWという)が必要になり,さらに,FCSW (Fibre Channel Switch)に相当する機能を実現するFCF (FCoE Forwarder)をFCoE-SW上に実装する必要がある。 FCによるSANは,複数のFCSW及びFCoE-SWによるネットワーク(以下,FCファブリックという)となる。
[Question4] FCoEスイッチに通常のイーサのNICやFCの接続はできるのか?
A4 DCBは従来のイーサネットの拡張(Enhanced)なので、従来のLANは使える。ただ,DCBは10Gbps以上の通信なので1000BASE-TのLANのポートでは使えない。相互互換の製品は出てくるかもしれない。FCのポートをもつ製品はふつうに存在するし、この問題でも図5にてFC接続部からFC対応ストレージに接続されている。
FCファブリックでは,接続しようとするホストは,最初にログイン処理を行う必要がある。このログイン処理を行うことで,ホストの接続ポートを識別するID(以下,FCIDという)が割り当てられる。FCIDは,ドメイン,エリア及びポートという物理的な接続関係を表すフィールドで構成されている。FCoE対応のホストは,FCファブリックに接続するために, FIP (FCoE Initialization Protocol)を用いてイーサネット経由でFCFにログインする。FIPを用いてFCFにログインすると,FCファブリック側から下位24ビットをFCIDとした,FCファブリック内でユニークなMACアドレスが, CNA中のHBAに当たる部分に割り当てられる(表1)。
表1 CNAに割り当てられるMACアドレスのフォーマット
用途 | 上位24ビット | 下位24ビット |
LAN用 | OUI | 製造者による割当て |
FC用 | 固定値(例:OE-FC-OO) | FCID |
OUI : Organizationally Unique Identifier
FIPのフレームは,制御を行うためのものであり,データ転送の場合のFCoEのイーサタイプとは別の, FIPを示すイーサタイプが使われる。
なぜログインが必要なの?
イーサネットの通信は、MACアドレスによって通信するホストが分かる。一方、FCの場合は、FCIDがそれに該当し、通信する相手を識別するのだ。そのために、FCファブリックの通信に必要なFCIDを受け取る必要がある。上記の表1にあるFC用のフォーマットも、下位はFCIDになっているのが分かるだろう。
FCFを実装したFCoE-SWによるFCoE用のフレーム(以下, FCoEフレームという)及びFCフレームの転送を,図5に示す。
FCFは, FIPの処理やFCoEフレームの中継処理を行うので, FCoEを使うためにはFCファブリック内にFCFが少なくとも一つは必要である。 FCFを実装したFCoE-SWでは, FCoEフレームはFCFを経由して転送される。また,図5に示すように,FCF経由でFC対応のストレージを接続することも可能である。
[Question5] 図5中の[ a ]~[ c ]に入れる適切なフレーム名を答えよ。(設問3(2))
A5 比較的と簡単な問題だ。aとbはFCoE制御部につながっているので「FCoEフレーム」。cは「FC接続部」につながっているので、「FCフレーム」。